
第8話「目を閉じれば聞こえる、英語のリズム」
音楽室のピアノの前で、響はひとり目を閉じていた。
「What do you wear on your head? A hat.」
アキ先生の声が、昨日の授業の記憶からふいに蘇る。
ひとつひとつの単語が、まるで音符のように響いていた。
「What」「wear」「head」「hat」
響くのは内容語だけ。
あとは谷間に落ちるように、ささやきのように消えていく。
(まるで、ピアノの伴奏とメロディみたいだ…)
響はそう感じた。
曲にはメロディラインがある。聴いてほしいのはそこ。
コードやベースは支える役目。美しく、けれど背景に徹する。
それと同じだ。
英語のリズムにも、主旋律がある。
聞こえるべき「意味のある単語」が、ちゃんと浮き上がるようになっている。
「目を閉じて…耳をすませば…聞こえてくる。」
ピアノの鍵盤に手を置いた。
弾き慣れたショパンの前奏曲を、リズムだけでたどってみる。
すると英語のリズムと、ふと重なる瞬間があった。
(英語は、音楽だ。)
そう思えた時、胸の奥がすっと軽くなった。
これまでの「苦手」は、音ではなく“聞き方”だったのかもしれない。
アキ先生が言っていた。
「発音より大事なのは、リズムだ。内容語を、強く、ゆっくり、はっきりと。機能語は、弱く、速く、あいまいに。」
それをジャズチャンツでやってみたら、響は驚いた。
英語が、音楽のように聞こえた。
いや、むしろ——
音楽の中に、英語がいた。
(聞くんじゃない。感じるんだ。)
響は小さくうなずいた。
ピアノのふたをそっと閉じ、立ち上がった。
「音でわかる英語なら……わたし、いけるかもしれない。」
そのとき、遠くでチャイムが鳴った。(つづく)
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