
第3話「塾というアトリエ」
その塾は、駅から少し離れた静かな住宅街にあった。
白い看板に、落ち着いた書体でこう書かれている。
武蔵ゼミナール大学受験英語塾
扉を開けると、木の香り。
机と椅子だけの殺風景な空間かと思いきや、
どこか温もりのある空間だった。
「こんにちは」
返ってきたのは、落ち着いた低い声。
「いらっしゃい。君が一ノ瀬さんだね。
先輩の東雲さんから話は聞いているよ」
そう言って微笑んだのは、紺色のジャケットに茶色のネクタイを締めた男性。
アキ先生――彩の英語と出会う“もう一人の導き手”。
「絵を描く人なんだってね」
先生は彩のスケッチブックを見ながら言った。
「はい。でも……英語は正直、苦手です。
でも、先輩の絵に添えられた英語がすごく印象に残っていて……。
ああいう風に、自分の世界を伝えられたらって、思ったんです」
先生は静かに頷いた。
「いい動機だ。英語は、「自分の世界を“他者に開く鍵”」にもなる」
「鍵……」
「そして鍵は、訳すことでなく、“そのまま理解する”ことで開くんだよ」
そう言って先生は、彩に一枚の紙を渡した。
そこには、ひとつの短い英文が書かれていた。
This is the reason why I decided to try a new method.
――また、この文。
彩はハッとした。遥の絵のキャプションと同じだ。
「この文、読んでごらん。
でも、日本語に訳そうとはしないで、英語のまま、“感じて”みて」
「……え?」
「君は絵を描くとき、“これは木で、これは空で”と、
頭でラベルを貼ってから描くかい?」
「……いいえ。感じたまま、手を動かします」
「英語も同じ。意味を“置き換える”んじゃない。意味を“見つめる”んだ」
彩は深呼吸して、その英文をじっと見つめた。
This is the reason why I decided to try a new method.
なんとなく、“何かを変えたかった”という心の動きが浮かぶ。
“新しい何かを選んだ”ことへの想いが、にじんでくる。
訳そうとしていないのに、
その“気持ち”が、じんわり伝わってきた。
「……今、なんとなく、“先輩の心”が伝わった気がします」
「それが、直聞直解・直読直解の入り口さ」
アキ先生は、優しく言った。
その瞬間、彩の中で何かが“開いた”。
絵を描くように、英語を感じる。
そんな方法が、本当に存在するなんて。
新しいアトリエに、彩の手が伸びはじめた。
(第4話へつづく)
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