
第8話「見えない線を描く」
文化交流イベントの翌日。
彩はひとり、アトリエの隅でキャンバスに向かっていた。
(描きたい。でも、形にならない……)
心の中にある“何か”を表現したいのに、手が止まる。
彩はふと思った。
(進路調査票……まだ白紙のままだ)
放課後、武蔵ゼミナールにて。
「ねえ、アキ先生。もし……もしもですよ?」
「うん?」
「美大じゃなくて、海外のアートスクールを目指すって、ありですか?」
アキ先生は一瞬だけ目を細めたあと、ゆっくりうなずいた。
「もちろん“あり”だよ。というか――“最高に面白い”選択だと思う」
「でも私、英語、まだまだで……。海外なんて、自分にできるのかなって……」
先生は、壁に貼られた世界地図を指差した。
「ここに見える線、ぜんぶ“見えない線”なんだ。国境も、言語の壁も、
最初は“ある”と思ってるけど――実は“引いてるのは自分自身”なんだよ」
「……自分、ですか」
「君が“描いていい”と思えば、どこまでも線はつながる。
むしろ、君にしか描けない“自由な線”を、世界は待ってるんだ」
その夜。彩は再び筆を取った。
テーマは、《境界線》――Borderlines。
まず、白い画面の中央に黒い線を引く。
その上に、にじむように色を重ねる。
青が赤に染まり、黄が灰に溶けて、やがてすべてが一つになる。
そして、彩は小さく英語でタイトルを書き添えた。
There is no border in colors.
数日後。アキ先生がぽつりと言った。
「君の絵、もう“英語で考えてる”んじゃない?」
彩は笑った。
「うん。英語で話すことも、描くことと同じ。
思ったより、境界線なんてなかったんだなって」
キャンバスの前に立った彩の姿は、どこか凛としていた。
世界は一枚のキャンバス。
そこに、自分だけの“線”を描いていいんだ。
(第9話へつづく)
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